用語と命名
JapanTracker では、データの役割が名前だけでもなるべく一意に分かることを重視します。
ここでは、主要なデータや公開文書に使う英語名について、それが何を指すか、なぜその名前を採ったか、検討した別案をなぜ採らなかったかを記録します。短さだけを優先せず、長くなっても意味が限定される名前を選ぶことがあります。
英語のデータ名と日本語の表示名は別のレイヤーとして扱います。日本語を英語の直訳にそろえることより、初めて見る人がその画面で何を読めるか分かることを優先します。
record
指すもの: 「誰が・いつ・何をしたか」を、日付と出典とともに残す最小の記録単位です。発言、決定、文書の公表、事故、判決などを同じ形で扱い、一つの record が複数の case に属することもあります。
採用理由: JapanTracker 自身が「真実」と認定した単位ではなく、出典とともに残した記録であることを表せます。出来事だけでなく発言や文書も含められ、Git の履歴のように後から参照・再利用する考え方とも整合します。
採らなかった名前
fact: JapanTracker が真偽を確定したもの、という意味が強すぎます。event: 発言、文書、公表資料など、出来事と呼びにくいものを扱いにくくなります。article: 報道記事だけに範囲が狭まり、一次資料や公的判断を扱えません。
case
指すもの: 意味のある record のまとまりです。単発事故、長期政策、選挙、制度改正などを、「このまとまりで追うと理解しやすい」という単位で束ねます。
採用理由: 特定の種類の出来事に限定せず、複数の記録を一つの対象として追跡する単位を表せます。粒度を固定せず、長期間続く対象にも単発の対象にも使えます。
日本語表示: 経緯。case は対象そのものの種類を限定しない一方、JapanTracker の画面では複数の record を時系列でつないで「何が起きてきたか」を読むため、「出来事」より広く実態に合う「経緯」と表示します。
採らなかった名前
event: 長期政策や制度改正の経緯を一つに束ねる用途には狭すぎます。topic: 単なる話題や分類にも読め、記録を束ねるデータ単位としては弱くなります。issue: 問題や論点という評価を含みやすく、GitHub の Issue とも強く結び付きます。thread: record の連なりという意味は近いものの、SNSや掲示板のスレッドという意味が強く、対象自体のまとまりを指す名前としてはcaseの方が安定しています。
mediaCoverage
指すもの: ある case について、各報道機関がいつ、どのように報じたかを収集したものです。見つかった記事だけでなく、どこまで、どの条件で探したかという探索記録も合わせて持ちます。
採用理由: 英語の media coverage は、ある出来事や話題がメディアによってどのように扱われたかを表す自然な語です。coverage 単独でも報道の意味はありますが、データカバレッジ、テストカバレッジ、地域カバレッジなど別の意味が多いため、media を付けて一意にしました。
採らなかった名前
coverage: 文脈がなければ何の coverage か特定できません。newsMediaCoverage: ニュース記事に限定して読まれやすく、テレビ、雑誌、公式SNSなどまで扱う将来の範囲を狭めます。reporting: 取材・報道する行為そのものの意味が強く、JapanTracker が持つ「どの媒体がいつ何を報じたか」という観測結果にはmediaCoverageの方が合います。
sweep
指すもの: 報道を収集した行為そのものです。何を、いつ、どの方法・検索語・対象期間・対象媒体で探し、どこに限界があったかを残します。
採用理由: 検索だけでなく、サイト内の記事一覧、RSS、有料データベース、手作業、読者からの提供まで、ある範囲を一巡して調べた行為をまとめて表せます。見つかった記事とは分離し、「探していない」と「探したが確認できなかった」を区別する土台になります。
日本語表示: 探索。実装上の名前を直訳するより、読者が何をした記録か分かる語を使います。
採らなかった名前
search: RSS、記事一覧、手作業、読者提供など、検索とは呼びにくい収集経路を含められません。scan: 自動的・定期的な走査の意味が強く、手作業による探索には合いません。collectionRun: 実行単位としては正確ですが長く、読者提供を run と呼ぶのも不自然です。
coverageObservation
指すもの: 一つ以上の sweep を根拠に、特定の報道を確認できた、または記載した条件では確認できなかったという観測結果です。探索手続きである sweep や、見つかった記事そのものである article とは分けて持ちます。
採用理由: 「報じなかった」という断定や媒体への評価ではなく、明示した探索条件のもとで確認できたことを表せます。observation 単独では statistics の観測値と区別しにくいため、coverage を付けて報道についての観測に限定しました。
日本語表示: 観測結果。「見つからなかった」という結果も含むため、「発見」ではなく観測とします。
採らなかった名前
observation: 意味は正確ですが、statistics のobservationsと区別できません。finding: 調査結果の意味では使えますが、「見つからなかった finding」が直感的でなく、解釈や結論にも読めます。result: 生の検索結果、記事一覧、集計結果のどれを指すか曖昧です。
unresolved
指すもの: case について、現時点ではまだ確定・判明しておらず、今後公表される資料、判断、調査結果などによって更新される事項です。解消した項目も削除せず、当時何が未確定だったかを後から辿れるように残します。
採用理由: 運営側の作業待ちではなく、外部世界の側でまだ答えが出ていないことを表せます。問いだけでなく、原因、責任、判決、調査結果、行政判断など幅広い未確定事項を含められます。case の中のフィールドとして使うため、何が unresolved なのかは親の文脈から明確です。
日本語表示: 今後わかること。内部概念の直訳より、その節を読むと何が得られるかをそのまま見出しにします。
ID: <case-id>-<item-slug>。p- や u- のような状態由来の接頭辞は付けません。項目が後に解消しても ID は変えないため、可変状態を識別子に埋め込まない設計にします。
採らなかった名前
pending: レビュー待ち、処理待ち、運営の TODO など、内部作業が保留されている意味に読まれやすくなります。openQuestions: 未解決の「問い」に意味が限定され、今後出る報告書や判断そのものを置きにくくなります。unresolvedIssues: 意味は近いものの、GitHub に慣れた人には Issue 自体が未解決事項を表すため冗長に見え、社会問題という意味も混ざります。unresolvedMatters: 一意ではあるものの、mattersが「事項」以上の意味をほとんど足さず、名前を長くする効果が小さいと判断しました。unknowns: 現時点で分からないことは表せますが、「報告書が今後公表される」のように、存在や予定は既知で内容や判断だけが未確定という対象を十分に表しません。
people
指すもの: record や case に関わる人物のデータです。人物ごとに記録を逆引きし、何をしたかを時系列で参照できるようにします。
採用理由: 最も平易で範囲が明確です。抽象的な上位概念にまとめず、人間であることを名前から直接判断できます。
採らなかった名前
persons: データモデルや法的文脈では使えますが、一般的な読みやすさではpeopleに劣ります。entities: organizations とまとめるには便利ですが、人と組織の違いが名前から分からなくなります。actors: record 内では人と組織をまとめた参照名として使えますが、人物一覧そのものの名前には広すぎます。
organizations
指すもの: 行政機関、政党、企業、報道機関、団体など、record や case に関わる組織のデータです。
採用理由: 会社や官公庁だけに限定せず、JapanTracker が扱う非個人の主体を広く表せます。people と並べたときにも役割が明確です。
採らなかった名前
companies: 行政機関、政党、NPO、報道機関などを含められません。institutions: 公的機関や制度的組織の意味が強く、企業や任意団体まで自然には含みません。entities: people との区別が消え、具体性が下がります。
statistics
指すもの: 公的機関などが公表した統計から、系列を一本ずつ構造化して記録したものです。JapanTracker 独自のランキングや指数を作るのではなく、定義、読み方、観測値、出典、取得方法を合わせて持ちます。
採用理由: 現在の機能は「日本社会を見るために JapanTracker が選定した代表指標」ではなく、公表済みの統計系列を再利用しやすい形で記録するものだからです。公開URLや日本語表示でも「統計」が最も自然です。
採らなかった名前
indicators: 社会の状態を見るために選ばれた指標、という編集的な意味を持ちます。将来、複数の statistics から定点観測用の指標を選んだダッシュボードを作る場合の名前として空けておきます。metrics: サービスKPIや計測指標の意味が強く、公的統計の系列という現在の役割には合いません。
docs
指すもの: JapanTracker の目的、設計思想、データの考え方、AI運用、監査、配信、責任範囲など、現在の方針を公開する正規ドキュメントです。
採用理由: 単なる About ページではなく、複数の設計・運営文書を持つためのまとまりです。Webサービスとしての説明だけでなく、データベースやソフトウェアの仕様に近い内容も含むため docs が合います。
採らなかった名前
about: プロジェクト紹介の意味が中心になり、データ設計や監査方針まで含む器としては狭すぎます。methodology: 調査方法に意味が限定され、ミッション、責任範囲、配信方針などを含められません。policies: 運営ルールには合いますが、アーキテクチャやデータモデルの説明まで自然には含みません。
将来の名前を使い切らない
今ある機能に近いという理由だけで、将来より適切な用途がありそうな名前を先に使いません。たとえば indicators は、現在の statistics の別名にはせず、JapanTracker が継続して観測する代表指標をまとめる機能を作る場合の候補として残します。